以前の記事で1カ月単位変形労働時間制を取り上げましたが、今回は「1年単位変形労働時間制」です。1年単位変形労働の場合は、例えば夏場は忙しいけど冬場は暇という場合など、季節により業務の繁閑に差がある際に活用される制度であり、宿泊業や観光業、農業などでよく利用されている印象です。1カ月単位変形労働時間制と同様、メリットもありますが注意点もありますので、その内容について確認していきます。
1年単位変形労働時間制とは
1年単位の変形労働時間制は、業務の「繁忙期」と「閑散期」が明確な事業場において、労働時間を効率的に配分することで、年間の総労働時間の短縮を図ることを目的とした制度です。これは、1カ月を超え1年以内のある一定期間を平均して、1週間の労働時間を40時間以下とする範囲内で、特定の日や週に法定労働時間(1日8時間・週40時間)を超えて労働させることができる制度です 。

1カ月単位変形労働時間制は月の中で業務の繁閑に差がある場合に利用されていたけど、1年単位変形労働時間制は季節によって繁閑に差がある場合に用いるというイメージだね。
導入のための要件
まずは導入するための要件を確認します。1カ月単位変形労働時間制とは異なり、常時10人以上の労働者を使用する事業場であれば労使協定と就業規則の両方を労働基準監督署長に届け出る必要があります。

1カ月単位変形労働時間制は就業規則の変更のみでも導入できたね。
労使協定で定めるべき5項目
1年単位の変形労働時間制を導入するには、労使協定の締結と、これを所轄労働基準監督署長に届け出ることが必要です。
労使協定では、次の5項目を締結する必要があります。
対象期間について
その期間を平均して1週間当たりの労働時間が40時間を超えない範囲内において労働させる期間をいい、1カ月を超え1年以内の期間となります。1年間が最長期間であるので3カ月、4カ月、半年などの対象期間を採用することもできます。
特定期間とは?
1年単位の変形労働時間制を導入する際に、労使協定により対象期間(最長1年間)の中で特に業務が繁忙な時期として定める期間のことです。この特定期間を設定することで、連続して労働させることができる日数について、原則的な制限が緩和されます。
| 原則 | 特定期間 | |
|---|---|---|
| 連続日数の限度 | 6日間 | 最長12日間 |

後述していますが、特定期間でも1週間に1日の休日が確保が必要です。つまり12日間連続勤務する場合は14日間の最初と最後の日を休日にすれば可能ということになります。
就業規則への記載と整備
常時10人以上の労働者を使用する事業場では、1年単位の変形労働時間制を採用する旨を就業規則に記載し、所轄労働基準監督署長に届け出る必要があります。

始業・終業の時刻、休憩時間、休日に関する事項は就業規則の絶対的必要記載事項であるため、制度の採用に合わせて就業規則に規定しなければいけません。
労働時間や労働日数に関する具体的なルール
続いて対象となる期間、労働日と労働時間、労働日数の限度などを確認していきます。
対象期間と労働時間の特定
対象期間(最長1年)を平均し、1週間当たりの労働時間が40時間を超えないように、対象期間内の各日・各週の所定労働時間を定める必要があり、これは対象期間の全期間にわたって定めておかなければいけません。
ただし、対象期間を1カ月以上の期間に区分する場合は、以下の情報を定めることで特定が可能です。
| 期間 | 労使協定締結時に定める事項 |
|---|---|
| 最初の期間 | (1) 労働日 (2) 労働日ごとの労働時間 |
| 最初の期間を除く各期間 | (3) 労働日数 (4) 総労働時間 |

最初の期間を除く各期間の「労働日と労働日ごとの労働時間」については、その期間の始まる少なくとも30日前に、労働者の過半数を組織する労働組合(または労働者代表)の同意を得て、書面により定める必要があります。
参考例を下に貼っておきます。(厚生労働省/東京労働局の資料から抜粋)

労働時間総枠の上限
対象期間全体で設定できる所定労働時間の総枠は、以下の計算式で上限が決まっています。
対象期間における所定労働時間総枠 ≦ 40時間 × (対象期間の歴日数 ÷ 7)
この計算式で算出する労働時間総枠の上限は次のとおりです。
| 対象期間 | 所定労働時間総枠の上限 |
|---|---|
| 1年(365日の場合) | 2,085.71時間 |
| 6カ月(183日の場合) | 1,045.71時間 |
| 4カ月(122日の場合) | 697.14時間 |
| 3カ月(92日の場合) | 525.71時間 |
年間の休日数
1日の所定労働時間が一定の場合、1週間の労働時間が平均40時間を下回るようにするためには年間の休日数は次のとおりとなります。

これはあくまで1日の所定労働時間が変動せずに一定になっているという場合だね。
必要な年間休日数 =
{(1日の所定労働時間数 × 7日 - 40時間)÷(1日の所定労働時間数 × 7日)}× 365日
※小数点以下切り上げ
※1年が365日の場合
| 1日の所定労働時間 | 必要な年間休日数 | |
|---|---|---|
| 1年365日の場合 | 1年366日の場合 | |
| 8時間00分 | 105日 | 105日 |
| 7時間45分 | 96日 | 97日 |
| 7時間30分 | 87日 | 88日 |

後述しますが年間の所定労働日数は280日が限度日数になりますので、この式で計算して必要な年間休日数が85日(1年365の場合)を下回ってはいけないということになります。
年間労働日数の限度
対象期間における労働日数の限度は、原則として1年間に280日です。(対象期間が3カ月以内の場合は制限なし)
対象期間が1年未満の場合は次の式で上限日数を計算します。
280日 × 対象期間中の歴日数 ÷ 365日(1年365日の場合)
※小数点以下切り捨て
例)対象期間中の歴日数が214日の場合
280日 × 214日 ÷ 365日 = 164.16 ⇒ 164日
旧協定がある場合の特例
前年度において、1年単位の変形労働時間制を協定している場合(以下「旧協定」)で、新協定が旧協定の1日または1週間の労働時間よりも長く定め、かつ 1日9時間または1週48時間を超えることとしたときは、以下のうちいずれか少ない日数としなければなりません 。
- 280日
- 旧協定の労働日数から1日を減じた日数

どういうことかよく分からないね。
それでは例を使って考えてみます。
- 旧協定
- 対象期間:1年
- 1日の労働時間の最も長い日:8時間50分
- 1週間の労働時間が最も長い週:48時間
- 総労働日数:252日
- 新協定
- 対象期間1年
- 1日の労働時間の最も長い日:8時間30分
- 1週間の労働時間が最も長い週:51時間
- 総労働日数:251日
<要件1>新協定が旧協定の1日または1週間の労働時間よりも長く定める
⇒ 1週間の労働時間が48時間から51時間と長くなっているため該当
<要件2>1日9時間または1週48時間を超える
⇒ 新協定の1週間の労働時間は51時間となり48時間を超えるため該当
<結果>
要件1、要件2のいずれにも該当するため、年間労働日数の限度は280日と旧協定の労働日数から1日を減じた日数の少ないほうの日数にしなければいけないため、252日-1日= 251日 となります。
連続労働日数
連続労働日数は、原則として最長6日までです。 ただし、労使協定で特定期間を設けた場合は、1週間に1日の休日が確保できる日数(最長12日)とすることができます。
参考例を下に貼っておきます。(厚生労働省/東京労働局の資料から抜粋)

尚、上で記載したとおり、特定期間とは対象期間内で特に業務が忙しい時期として定めた期間を言います。

ちなみに対象期間のうち相当な部分を特定期間として定めることは、法の趣旨から認められていません。
また一旦協定した特定期間は対象期間の途中で変更することも認めらないので注意してください。
1日・1週間の労働時間の限度
1年単位の変形労働時間制における労働時間の限度は、以下の通りです。
- 1日:10時間
- 1週:52時間
ただし、対象期間が3カ月を超える場合、週52時間の設定には以下の制限があります。
- 週48時間を超える所定労働時間を設定するのは連続3週以内とすること
- 対象期間を初日から3箇月ごとに区切った各期間において、週48時間を超える所定労働時間を設定した週の初日の数が3以内であること
こちらも参考例を下に貼っておきます。(厚生労働省/東京労働局の資料から抜粋)

割増賃金の支払い
労働時間が法定労働時間を超えた場合、その超えた時間について割増賃金を支払う必要があります。 時間外労働となる時間は次の通りです。
- 1日の法定時間外労働
- 労使協定で定めた1日8時間を超える時間を定めた日はその時間
- それ以外の日は8時間を超えて労働した時間
- 1週の法定時間外労働
- 労使協定で定めた1週40時間を超える時間を定めた週はその時間
- それ以外の週は1週40時間を超えて労働した時間
※いずれも上1で時間外労働となる時間を除く
- 対象期間の法定時間外労働
- 対象期間の法定労働時間総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7)を超えて労働した時間
※上1,2で時間外労働となる時間を除く
- 対象期間の法定労働時間総枠(40時間 × 対象期間の暦日数 ÷ 7)を超えて労働した時間
途中採用者・途中退職者の清算
対象期間より短い期間を労働した(途中採用者や途中退職者など)場合、実際に労働させた期間を平均して週40時間を超えた労働時間について、割増賃金を支払う必要があります。
割増賃金を支払う時間
= 実労働期間における実労働時間
- 実労働期間における法定労働時間の総枠
- 実労働期間における1日または1週の法定外労働時間
(上の1,2の時間)

これまた意味が分からないね。
こちらも下の参考例もとに確認してみます。(厚生労働省/東京労働局の資料から抜粋)

- 実労働期間における実労働時間
- 起算日が4月1日となっているところ、5月1日入社のため、5月1日~翌年3月31日までの総労働時間となります。
- ここでは1,930時間となっています。
- 実労働期間における法定労働時間の総枠
- (実労働期間の歴日数 ÷ 7日)× 40時間 の計算式で求めます。
- 335日 ÷ 7日 × 40時間 = 1,914.2時間
- 実労働期間における1日または1週の法定外労働時間
- 5月1日~翌年3月31日までの間で1日または1週の法定外労働時間をカウントします。
- この例では1日または1週の法定外労働時間はなかったということになっています。
割増賃金を支払う時間 = 1,930時間 ー 1,914.2時間 = 15.8時間
続いてBさんのケースです。Bさんは11月30日で退職したという例です。
- 実労働期間における実労働時間
- 起算日が4月1日となっているところ、11月30日退社のため、4月1日~11月30日までの総労働時間となります。
- ここでは1,410時間となっています。
- 実労働期間における法定労働時間の総枠
- (実労働期間の歴日数 ÷ 7日)× 40時間 の計算式で求めます。
- 244日 ÷ 7日 × 40時間 = 1,394.2時間
- 実労働期間における1日または1週の法定外労働時間
- 4月1日~11月30日までの間で1日または1週の法定外労働時間をカウントします。
- この例では1日または1週の法定外労働時間はなかったということになっています。
割増賃金を支払う時間 = 1,410時間 ー 1,394.2時間 = 15.8時間

途中採用者・途中退職者はその期間に応じて按分して清算するという考えですね。
適用対象者への配慮
次に該当する場合、適用する際に配慮が必要となります。
おわりに
ここまでで1年単位変形労働時間制の内容を確認してみましたが、実際に企業で取り入れるという場合、就業規則の変更、労使協定の締結、就業カレンダーの作成など行う必要がります。これらのサンプルも文中で何度も参考にさせてもらっている 厚生労働省/東京労働局の資料 に載っているのでよかったらご覧ください。
こうして見てみると1カ月単位変形労働もそうですが、総労働時間であったり休日の設定だったりと運用が大変な仕組みだと感じます。特に従業員の労働時間管理はかなり煩雑になるため相当な事務負担になるのではないでしょうか。
とはいえこの制度が必要な業種があるため、慎重な運営をしつつ、労使ともにもこの制度の理解を深めて運用できれば良いなと思います。

