ストレスチェック制度について ~小企業事業場の実施マニュアルを確認する~

労務関係

現在、従業員が常時50人未満の事業場にとって、ストレスチェックの実施は努力義務ですが、2028年頃を目途に義務化の対象が50人未満の事業場にも拡大される見込みです。この背景にあるのは、労働契約法に基づく事業者の「安全配慮義務」であり、事業規模にかかわらず、労働者が心身ともに健康に働けるよう配慮する義務は法的に課されており、ストレスチェックは、この法的義務を具体的に履行するための極めて重要なツールという位置づけになっています。とはいえリソースの少ない小規模事業場にとっては負担にもなってきますので、事前に準備ができるように、今回は「厚生労働省の小規模事業場向けの実施マニュアル(素案)」をもとに、小規模事業場がどのように対応していったらよいかを確認していきます。

ストレスチェック制度の趣旨・目的

労働安全衛生法に基づくストレスチェック制度の主な目的は、労働者のメンタルヘルス不調の未然防止にあり、具体的には次の点があげられます。

  • 労働者自身のストレスへの気付きを促し、自主的な休養や生活改善を促します。
  • 早期に高ストレス者を特定し、医師による面接指導という専門的な介入を行うことで、メンタルヘルス不調の「一次予防」を強化します。
  • 集団分析の結果を通じて、特定の部署や業務に内在するハラスメント、業務過多、人間関係の軋轢といったストレス要因をデータで「見える化」し、組織的な解決を促します。

企業にとっては優秀な人材に健康で長く働いてもらうということは大事なことだもんね。

ストレスチェックの対象となる労働者など

次にストレスチェックの対象となる労働者や受検義務などについて確認します。

対象となる労働者

ストレスチェック制度の対象となるのは、常時使用する労働者です。これは、正社員に加えて次の要件を満たす非正規労働者(パート・アルバイト)の方が該当します。

非正規従業員(パート・アルバイト)における受診義務の要件

次の2つの要件をいずれも満たす場合

  • 契約期間
    • 契約期間の定めがない
    • 契約期間の定めはあるが、更新により1年以上雇用される予定
    • 契約期間の定めはあるが、更新により1年以上引き続き雇用されている
  • 労働時間
    • 1週間の所定労働時間が、正社員(フルタイム労働者)の概ね4分の3以上

対象となる労働者の範囲は一般の定期健康診断と同じですね。

ちなみに派遣労働者のストレスチェックは派遣元に実施義務があります。

労働者の受検義務

一般定期健康診断と異なり、ストレスチェックでは、労働者に受検義務が課されていませんが、本制度を効果的なものとするためにも、できるだけ対象者全員が受検することが望まれています。

医師の面接指導

医師の面接指導は、対象者から申出があった場合は実施する義務があります。

集団分析

集団分析や職場環境改善は、事業場規模に関わらず、努力義務とされています

労働基準監督署への結果の報告

ストレスチェックの実施結果の労働基準監督署への報告は、労働者数 50 人以上の事業
場に義務付けられています
が、労働者数50人未満の事業場は不要です。

ちなみに工場、事務所、店舗など、それぞれを一つの事業場と考えます。つまり、同一企業であっても、場所が異なれば個の事業場ということになります。

ストレスチェック実施までの流れ

実施に向けた準備 → 実施体制の整備 → ストレスチェックの実施 → 事後措置 → 集団分析・職場環境改善 という流れで進めることになります。

実施に向けた準備

ストレスチェック実施に向けて次のような準備を行います。

  • 事業者による方針の表明
  • 関係労働者の意見聴取
  • 社内ルールの作成・周知

社内ルールとしては次の事項を定めることが望まれています。

社内ルールとして定めておくことが望まれる事項
  • 実施体制
  • 実施方法
  • 記録の保存
  • 情報管理
  • 情報の開示、訂正等及び苦情処理
  • 不利益な取扱いの防止

社内ルールを規定として作成する方法も勧められているね。

実施体制の整備

実施体制の整備には次のような内容があげられています。

  • 実務担当者の選任
  • 委託先の選定
  • 医師の面接指導の依頼先の選定
  • 実施時期と対象者の選定
  • 調査票・高ストレス者の選定方法の決定

実務担当者の選定

まず実務担当者は、事業場におけるストレスチェック制度の実施計画の策定、委託先の外部機関との連絡調整、実施の管理等の実務を担当 することになります。

実務担当者の主な役割
  • 関係労働者の意見聴取
  • 実施計画・実施管理
  • 外部委託先との契約・連絡調整

ちなみに労働者数10 人以上50 人未満の事業場では、労働安全衛生規則第12 条の2に基づき、選任することになる衛生推進者又は安全衛生推進者を実務担当者として選任することが望まれていますね。

委託先の選定

小規模事業者の場合、負担が大きいためストレスチェックの実施を外部機関に委託することが推奨されています。委託先としては次のようなところが考えられます。

種 類特 徴
産業保健サービス会社最も一般的、ワンストップで対応可能
医療機関医師による面接指導まで依頼しやすい
産業医・保健師個人柔軟でコストを抑えやすい
社労士事務所労務管理とセットで相談できる
専用システム会社低コストで導入しやすい

そして委託先を選定する際には事前に次の事項について説明を求めることが重要とされています。

  • 実施体制(実施者、実施事務従事者)
  • 実施方法(調査票、調査方法、高ストレス者・面接指導対象者の選定方法、ストレスチェック結果の通知方法、面接指導対象者への通知方法等)
  • 料金体系(料金体系、基本料金、オプション料金の明示等)
  • 面接指導(面接指導実施メニューの有無、面接指導医師等)
  • 情報管理(結果通知等の情報の流れ、結果の保存等)

その後の医師による面接指導や集団分析を委託先にお願いできるかどうかをふまえて検討すると良いみたいだね。

医師の面接指導の依頼先の選定

労働者50人未満の事業場の場合、医師の面接指導の実施は地域産業保健センター(地産保)を利用するかストレスチェックを委託した先のオプションサービスを利用するのかのどちらかになる場合が多くなります。

地域産業保健センター(地産保)とは?

厚生労働省所管の独立行政法人労働者健康安全機構が運営する支援機関で、全国350 か所(概ね労働基準監督署単位)に設置されています。地産保には登録産業医が配置されており、産業医の選任義務のない50名未満の小規模事業場の事業主やそこで働く人を対象とし、医師の面接指導のほか、定期健康診断結果の医師の意見聴取など、労働安全衛生法に関する医師サービスを無料で受けることができます。

なお地産保では、ストレスチェック自体は実施していないので注意しましょう。

実施時期と対象者の選定

ストレスチェックの実施時期(1年ごとに1回)、と対象者を決定します。実施時期は集団分析を行うことになりますので、分析の単位となる集団については同時期に行った方が良いとされています。

対象は常時使用する労働者で、正社員に加えて要件を満たす非正規労働者だね。

調査票及び高ストレス者の選定方法の決定

ストレスチェックの調査票と高ストレス者の選定方法を、実施者の提案等を踏まえて決定します。調査票は、調査用紙を配布する方法やウェブ上で回答してもらう方法があります。高ストレス者の選定方法は委託先の提案等をふまえて決定することになります。

ストレスチェックの実施

ストレスチェック実施の流れは次のとおりになります。

  • 調査票の配布・回収・受検勧奨
  • 結果の通知
  • 結果の保存

調査票の配布・回収・受検勧奨

委託先が調査票の配布・回収を行ってくれますので、実務担当者は事前にストレスチェックの実施について周知しておく必要があります。(実施時期、委託先の外部機関名、調査票の配布・回収
の方法、受検勧奨の方法等)

ストレスチェックは全員が受検することが望ましいですが、強制はできませんので、なかなか受検しない従業員には目的やメリットを丁寧に説明することが重要になります。

ストレスチェックはできるだけ業務時間中に受けてもらうようにしましょう。法令で業務時間中での実施が定められているわけではありませんが、従業員の健康に関することのため、業務時間として取り扱うこと望ましいですね。

結果の通知

結果の通知は委託先から従業員本人に通知するようにしなければいけません。面接指導を受けるべき対象者がいる場合、委託先が面接の申出をするよう対象者へ勧奨します。

事業者が面接指導の各個人結果を受け取るわけではないんだね。

ちなみに委託先から結果を封書に入れて事業場に渡し、それを事務担当者等から個人に配布するという方法は差し支えないとされています。

面接指導の対象者への勧奨は本人のみに伝える必要があるため、電子メールで通知するなど配慮が必要となります。

結果の保存

結果は事業者が受け取ることはできないため、委託先が保存することが望まれてます。なお、保存期間は5年とされています。

事後措置

事後措置の流れは次の通りになります。

  • 面接指導の申出
  • 面接指導の実施
  • 医師からの意見聴取
  • 就業上の措置
  • 面接指導以外の相談対応
  • 面接指導結果の記録と保存

面接指導の申出

面接指導の申出を受け付ける流れは、事業者に直接申出てもらう方法と、委託先の外部機関に申出てもらう方法があります。

こちらは下の図が分かりやすいので貼っておきます。

<参照|小規模事業場ストレスチェック制度実施マニュアル P.21>

ストレスチェックはと同様、面接指導も業務時間中に受けてもらうようにしましょう。

面接指導の実施

事業者は、面接指導の実施に際し、面接指導を担当する医師に、面接指導に必要な情報を提供します。

面接指導を実施する医師に提供する情報
  • 対象となる労働者の氏名、性別、年齢、所属する事業場名、部署、役職等
  • 個人のストレスチェック結果(ストレスプロフィール等)
  • ストレスチェックを実施する直前1 か月間の、労働時間(時間外・休日労働時間を含む)、労働日数、深夜業の回数及び時間数、業務内容(特に責任の重さなどを含む)等
  • 定期健康診断やその他の健康診断の結果
  • ストレスチェックの実施時期が繁忙期であったかどうかの情報

個人のストレスチェック結果は委託先から取り寄せて医師に提供する方法や本人が持参するという方法があげられています。

医師からの意見聴取

面接指導結果に基づき、就業上の措置の必要性の有無や講ずべき措置の内容について、医師から意見を聴取しなければなりません。

面接指導を実施した後、遅くとも1月以内には医師から意見を聴取する必要があります。

就業上の措置

医師の意見書により、「通常勤務就業制限休業」のいずれかの結果に基づき就業上の措置が必要となります。

就業上の措置をとる場合、該当の労働者の話しを聞き了解を得るようにしましょう。

面接指導以外の相談対応

面接指導を受けない労働者が、高ストレス状態のまま放置されないように面接指導以外の相談できる窓口があれば案内してあげましょう。

面接指導結果の記録と保存

事業者は面接指導の結果として次の内容を記録し保存します。

面接指導結果として保存する内容
  • 面接指導の実施年月日
  • 当該労働者の氏名
  • 面接指導を行った医師の氏名
  • 当該労働者の勤務の状況
  • 当該労働者の心理的な負担の状況
  • その他の当該労働者の心身の状況
  • 当該労働者の健康を保持するために必要な措置についての医師の意見

集団分析・職場環境改善

委託先に、個人のストレスチェック結果を集団ごとに集計・分析してもらい、それにより勤務形態や職場組織の見直し等の様々な観点から職場環境の改善に努めなければいけません。

なお、集計・分析の単位が10 人を下回る場合は、個人が特定されるおそれがあるため、原則として集団分析結果の提供を受けることはできません。

プライバシーの保護、不利益取扱いの禁止

個人のプライバシーへの配慮とストレスチェックの結果を理由とした不利益取扱いは禁止されています。

プライバシーの保護

ストレスチェックや面接結果については次のように取り扱うこととされています。

個人のストレスチェック結果事業者が実施者から提供を受けるためには労働者の事前の同意が必要
面接指導の申出の有無法令に基づく事項であるため、労働者の事前の同意なく事業者が取得可能
面接指導結果法令に基づく事項であるため、労働者の事前の同意なく事業者が取得可能
面接指導結果について医師から聴取した意見法令に基づく事項であるため、労働者の事前の同意なく事業者が取得可能

不利益取扱いの禁止

次のようなことを理由とした不利益取扱いは禁止されています。

  • 労働者が面接指導の申出をしたことを理由とした
  • ストレスチェック結果のみを理由とした
  • ストレスチェックを受けないこと等を理由とした
  • 面接指導結果を理由とした

おわりに

リソースの限られている中小企業にとってはストレスチェックの実施自体が負担になりますが、今回参考にさせてもらったマニュアルを見てもやはり簡単ではないという感じはしました。委託先の選定から面接指導など、そもそも産業医の選任義務のない企業にとっては何から取り組むべきかわからないのではないでしょうか。

実際に50人未満の企業に義務化されるころには、もっと充実したマニュアルや助成金などもでてくるかもしれませんので、そういった情報や制度があれば上手に活用し、従業員の健康のためにストレスチェックを役立ててもらえらばと思います。