~内定後には必ず確認~ 雇用契約書や労働条件通知書のチェックポイント

労務関係

労働契約(雇用契約)とは、労働者が使用者の指揮命令下で労務を提供し、使用者がそれに対して賃金を支払うという契約です。労働契約法によって規定されており、労使双方の合意によって契約が成立します。

雇用契約書や労働条件通知書はその働く上での条件を定めるためのものであるため、企業・労働者それぞれに重要なものであり、入社時や入社の数日前に従業員に渡されるのが一般的です。

ほとんどの企業は法令に則った内容で交付されますが、中には交付がない、必須のはずの項目が漏れている、内容が法令に違反している、などといった事例もあるようです。そのためここでは雇用契約書や労働条件通知書がどういうものかということや交付の際のチェックポイントなど見ていきたいと思います。

労働条件の優先順位

まずは労働条件の優先順位について確認です。例えば、就業規則と雇用契約書ではどちらが優先されるのか?といった場合の考え方になります。

労働条件の優先順位

法令(強行法規)> 労働協約 > 就業規則 > 労働契約

順位が高いものが定めている内容が優先されるということだね

例えば雇用契約書で定める内容が就業規則の基準に達していない場合、雇用契約書の内容は無効となり就業規則の基準に引き上げられるということになります。

ちなみに労働協約は、労働組合と使用者間で定めた労働条件や労使関係全般に関する取り決め事項になるため労働組合がない企業の場合は関係ありませんが、法令に次ぐ強い効力を持ち、組合員については就業規則や個別の労働契約よりも適用が優先されます。

労働契約の基本原則

労働契約法3条には労働契約の締結や変更に関する5つの基本原則が定められています。

労働契約法 第3条
  • 労使対等の原則
    • 労働者及び使用者が対等の立場における合意に基づいて締結し、又は変更すべきものとする
  • 均衡待遇の原則
    • 労働者及び使用者が、就業の実態に応じて、均衡を考慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする
  • 仕事と生活の調和ヘの配慮
    • 労働者及び使用者が仕事と生活の調和にも配慮しつつ締結し、又は変更すべきものとする
  • 信義誠実の原則
    • 労働者及び使用者は、労働契約を遵守するとともに、信義に従い誠実に、権利を行使し、及び義務を履行しなければならない
  • 権利濫用の禁止
    • 労働者及び使用者は、労働契約に基づく権利の行使に当たっては、それを濫用することがあってはならない

労働契約はこの5つの原則に従い、労使で締結することになります。

雇用契約書と労働条件通知書(雇入通知書)の違い

次の雇用契約書と労働条件通知書(雇入通知書)の違いをみてみます。

名前が違うだけでどちらも同じものではないの?

「労働条件を明示する」という意味では同じですがその用途が微妙に異なります。

労働条件通知書

労働条件通知書とは、その名の通り、使用者から労働者に対し、労働契約の期間や賃金といった労働条件に係る事項を通知するための書類です。

労働基準法第15条では、使用者が労働者を雇用する際、労働者に対して労働条件を明示することを義務づけており、後述する「絶対的明示事項」や「相対的明示事項」を書面で通知します。企業が労働者を雇い入れる際は、必ず労働条件通知書を作成・交付する必要があります。

「雇入通知書」や「雇用条件通知書」という場合もありますが意味合いは同じものです。

雇用契約書

雇用契約書とは、労働条件の内容を企業と労働者双方で合意・確認するための書類です。

一般的には労働条件通知書の内容を含んで作成されるため、雇用契約書が労働条件通知書の役割も兼ねることになります。名称も「雇用契約書兼労働条件通知書」となっていることもあります。

ただ、労働条件通知書が企業から労働者へ「一方的に交付されるもの」であるのに対し、雇用契約書は「双方が合意していることを証明するもの」です。

そのため、雇用契約書は事前に2部作成しておき、従業員に署名・捺印してもらった後、それぞれが保管しておくことになります。

雇用契約書であれば企業と労働者双方が合意により契約したこと明確にできますね。

労働条件通知書と雇用契約書の違い

労働条件通知書は法令で定められている内容を通知するための書類であるのに対し、雇用契約書は労働条件について企業と労働者の双方で合意するための書類ということになります。

項目労働条件通知書雇用契約書
法律労働基準法
パートタイム労働法
労働者派遣法
(労働条件の通知が必要とされている法律)
民法
書面の提示義務任意
合意の必要性不要(通知のみで可)必要

実際は雇用契約書の中で労働条件の明示まで行う場合が多いんだよね?

労働条件通知書では一方的な通知となるため入社後に「そんな条件は聞いていない」などのトラブルになる可能性がありますが、雇用契約書兼労働条件通知書であればお互いに合意するためそういったトラブルも回避することができますね。

労働条件の明示事項

労働条件の明示では必ず明示しなければならない絶対的明示事項と定めをした場合に明示しなければならない相対的明示事項があります。

絶対的明示事項

まず絶対的明示事項は必ず書面上で明示しなければいけませんが、2019年4月より電子メールやFAXでの労働条件の明示も認められていますが、制限もあるため運用には注意が必要です。

労働条件の明示を電子メール等で行う場合の注意事項
  • 労働者がメール等での明示を希望していること
  • 書面として出力することができること
  • 労働者本人のみが確認できるようにすること
  • メール等が正しく届いたかを確認すること

そして絶対的明示事項は次の6つがあります。

絶対的明示事項
  • 労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)
  • 労働契約更新の基準(更新の有無、更新がある場合は更新に関する判断の基準)
  • 就業場所(変更の範囲)
  • 従事する業務の内容(変更の範囲)
  • 労働時間、残業、休憩時間、休日、休暇に関する事項、昇給
    ※昇給は口頭での明示で足り、書面での明示は必須ではない
  • 賃金の支給額、計算方法、締め日、支払日、支払い方法に関する事項
  • 退職(解雇の事由を含む)に関する事項

2024年4月1日の法改正より、就業場所業務の内容はその変更範囲の明示が必要になっています。

相対的明示事項

続いて相対的明示事項は定めがあれば必ず明示しなければならないもので、口頭での明示でも許されています。以下の8項目があります。

相対的明示事項
  • 退職金に関する事項
  • 臨時に支払われる賃金(賞与)に関する事項
  • 食費や作業用品など社員が負担すべき費用についての事項
  • 安全及び衛生に関する事項
  • 職業訓練に関する事項
  • 災害補償及び業務外の傷病扶助に関する事項
  • 表彰と制裁に関する事項
  • 休職に関する事項

パートタイマー

パートタイマーの場合、上に加えて次の4項目の明示が必要です。

パートタイマーの場合
  • 昇給の有無
  • 退職手当の有無
  • 賞与の有無
  • 相談窓口

有期契約労働者

2024年4月より、有期契約労働者には次の事項の明示も必要になりました。

有期契約労働者の場合
  • 更新上限(通算契約期間または更新回数の上限)の有無と内容
    他、最初の労働契約の締結より後に更新上限を新設・短縮する場合、その理由を労働者にあらかじめ説明することが必要です。
  • 無期転換申込機会
  • 無期転換後の労働条件
    他、無期転換後の労働条件を決定するにあたり、就業の実態に応じ正社員等とのバランスを考慮した事項について、有期契約労働者に説明するよう努めなければならないとされています。

パートタイマーや有期契約労働者の場合は明示項目が多いんだね。

ちなみに”無期転換後の労働条件”は無期転換権が発生する更新タイミングから明示が必要です。契約期間が3年としてら1回目の更新時から明示が必要ということですね。その後は更新の都度、明示が必要です。

雇用契約書・労働条件通知書のチェックポイント

まずは上の絶対的明示事項や相対的記載事項の漏れがないか確認しましょう。

でも記載が必要なんだから漏れてることはないんじゃないの?

法改正前の古い様式を使い続けてしまっているという場合もありますので念のため確認した方が良いですね。

ここから各項目ごとに見ていきます。

労働契約の期間(期間の定めの有無、定めがある場合はその期間)

正社員であれば「期間の定めなし」となります。期間の定めがない場合は試用期間の有無を確認しておきましょう。試用期間の場合に賃金が低く設定されるという場合もあります。

「期間の定めあり」の場合は、労働契約更新の基準(更新の有無、更新がある場合は更新に関する判断の基準)の記載があるはずなので確認しましょう。あわせて、更新上限無期転換申込機会無期転換後の労働条件を確認しましょう。

就業場所

基本的には入社直後の就業場所と変更の可能性がある場所が明示されているはずです。

明確に就業場所が記載されているかどうか転勤の有無転勤がある場合はその頻度や時期就業場所の変更範囲を確認しましょう。

従事する業務の内容(変更の範囲)

入社直後の業務内容とその変更の範囲が明示されているはずです。

「~に付随する一切の業務」や「~業務全般」など包括的に記載される場合があります。やりたいことややりたくないことが明確な場合は詳細を確認しておきましょう。

勤務時間、休憩時間

始業と終業時間休憩時間の他、所定外労働の有無についてです。

勤務時間についてはフレックスタイム制や変形労働時間制をとっている企業もあります。

休憩時間は企業によっては60分より長く設定しているという場合や複数回に分割しているという場合もあります。

賃金

求人票の情報や面接時の内容通りかを確認しましょう。

その他、賞与退職金の有無と算定方法や通勤手当資格手当なども確認しましょう。

賞与や退職金は正社員ならあるんじゃないの?通勤手当も電車通勤ならでるんだよね?

就業規則で定められていればその規定どおり支払われます。ただ賞与や退職金だけでなく、通勤手当を含むその他の手当も企業が任意で支払うかどうかを決めることができるため支払われない場合もありますよ。

残業時間(所定外労働時間)、残業代

月の最大時間を記載していることもあります。平均的な時間まで確認しておきましょう。

固定残業代となっている場合は何時間分の金額か、その時間を超えて労働した場合に法令通り支払われるのかを確認しましょう。

その昔は固定残業代を「定額で働かせ放題」と勘違いしてる企業もありました。今の時代は適切な運用をされている場合が多いですが念のため確認しておくべきですね。

休日

休日の曜日は企業によっては部署ごとに違う場合もありますので確認しておきましょう。

「週休2日制」となっている場合も注意が必要です。1ヵ月のうちに週休2日の週が1回でもあれば週休2日制になるからです。毎週必ず2日休みがあるという場合「完全週休2日制」と記載されます。

年間休日数は105日~120日程度が一般的です。もし105日を下回る場合は変形労働制を採用している場合やそもそも時間外労働を織り込んでいる場合になります。

例えば週5日勤務の場合、1年間は約52週あるため5×52でおおよそ年間260日勤務することなります。365日-260日=105日となるため、基本的な就業体系で働く場合は105日は下回りません。

休暇

有給休暇や慶弔休暇などの特別休暇がどうなっているか確認しましょう。有給休暇は入社6ヵ月での付与が一般的ですが、入社直後から付与してくれるという企業もあります。

福利厚生

社会保険や労働保険への加入は当然ですが、その他にも病気やケガ、休職時の補償を行う保険に加入してくれている場合があります。

パッケージプランやカフェテリアプランといった様々なサービスを受けられる制度を導入している企業もあります。

労働条件の通知時期

最後の労働条件を通知する時期についてです。

労働条件通知書を渡すタイミングは法律上では雇用契約を締結するときとなりますので、すなわち雇入時ということになります。

とはいえ内定者も労働条件を確認せずに入社を決めることは難しいため、通常は内定時など早めに通知する必要があります。

ただ就業場所など入社時でまで決められない労働条件がある場合、内定通知書の中である程度の労働条件を記載し、正式な労働条件は入社時に通知するという場合もあります。

おわりに

労働者は契約に基づき、企業に対して労務を提供することでその代価として賃金を受けることになっているため、契約の内容はとても重要です。

そしてこの契約の条件は入社後にころころ変更するようなことはあまりありません。そのため最初に提示される労働条件をしっかり確認し、納得したうえで入社する必要があります企業側としても労働条件を明確に提示することで納得して働いてもらうことができます。

あいまいな内容が記載されていた場合、企業・労働者双方が都合の良い様に解釈してしまい労使トラブルに発展するという事もあります。こういったことを防止する意味でも労働条件の内容を安易に考えず、しっかり検討することは重要だと思います。