退職金制度は企業の福利厚生として重要な役割を担っています。その目的は従業員のモチベーション向上や長期安定雇用、採用における求人情報の魅力向上など多岐に渡ります。従業員としてもこれからの老後は年金だけでは心もとないと考えられている中、退職金に期待している部分も大きいと思います。
中小企業が退職金制度を設ける場合、中小企業退職金共済制度をはじめいくつかの選択肢があり、それらを組み合わせるということも可能です。今回は退職金制度について、その趣旨や考え方、実際の制度の種類など確認してみたいと思います。
退職金制度を設けるかは企業の任意
企業の福利厚生の中心ともいえる「退職金制度」ですが、まず大前提として、会社には退職金を支払う法的義務はありません。労働基準法においても、退職金制度の設置は各企業の任意とされています(ただし、就業規則に規定があれば支払い義務が発生します)。それでも、多くの企業が従業員の安心感や定着率向上を目的に、退職金制度を導入しています。

退職金制度は約75%の企業が導入しています。勤続年数や企業規模、業種、学歴等によって異なります。
自社に退職金制度が必要かどうかを考える
退職金制度を検討する際には、まず「自社にとっての目的」を整理することが重要です。次の3つの考え方(学説)は、退職金制度を“単なる福利厚生”ではなく“経営戦略の一部”として捉えるうえで参考になります。
これらを総合し、自社が従業員や求める人材に対してどのような経営方針や処遇の考え方を示したいのかを明確にすることが、制度導入の第一歩となります。
賃金後払説
本来支払われるべき賃金の一部を退職時まで会社が預かるという考え方です。長く勤めるほど経済的メリットが大きくなるため、早期離職の防止や人材定着に効果があります。
功労報奨説
長年の貢献や成果に対して報奨金を支払うという考え方です。役職や貢献度を退職金に反映させる根拠となり、「頑張った従業員に最後に報いたい」という経営者の想いを制度として形にできます。
生活保障説
退職後の従業員とその家族の生活を支える資金という考え方です。「この会社で定年まで働けば老後も安心だ」という信頼感を生み、従業員が目の前の仕事に集中できる環境づくりにつながります。

どの説が有力とかあるのかな?

かつては「会社からの恩恵(功労報償)」としての意味合いが強かったのですが、現在は「労働者の正当な権利(賃金後払い)」としての法的地位が確立した上で、その他の要素が付随されている状態だと考えられていますね。
将来の「給付」を約束するか、毎月の「積立」を約束するかを考える
退職金の導入と目的が整理できたら次に検討すべきは、退職金準備の方向性です。大きく分けて次の二つがあります。
確定給付型(将来の額を約束)
「将来、退職時に〇〇円支払う」という給付額をあらかじめ約束する形式です。
| メリット | 従業員が将来の見通しを立てやすく、安心感がある |
| リスク | 運用環境が悪化して積立資産が不足した場合、会社が追加拠出を行う必要がある |

将来の給付額を約束しているわけだから、もし運用などがうまくいかなくて予定額に達しなかったら不足分は会社が補填しないといけないんだね。
確定拠出型(毎月の額を約束)
会社は「毎月〇〇円出す」ことだけを約束し、その資金の運用は従業員自身が行う形式です。
| メリット | 会社の将来的な債務リスクがゼロになり、拠出時点で経理処理が完結する |
| リスク | 将来の受取額が運用成績に左右されるため、従業員への投資教育が必要 |

こちらは逆に毎月の掛金を約束しているので、将来的の給付額がいくらになっても会社は責任を負いません。基本は毎月の掛金を従業員が自身で将来のために運用してもらうことになります。
従業員の「評価」を退職金に反映させるかを考える
退職金の算定方法は、自社の社風や人事制度に合わせて選択することになります。全員一律で積み立てる方法もあれば、従業員の評価をふまえて積み立てる方法もあります。主な方式として次のものがあげられます。
定額・勤続年数連動型
管理が容易で、従業員にとっても予測しやすい方式です。「長期勤続による貢献」を重視する企業に向いています。
| 特 徴 | 勤続年数に応じて一定額が積み上がる、最もシンプルな方式 |
| 「長く働くほど報われる」というメッセージが明確 | |
| メリット | 制度運用が圧倒的に簡単(計算・説明・管理が容易) |
| 従業員にとっても将来予測がしやすい | |
| 年功序列文化と相性が良い | |
| デメリット | 貢献度の差が反映されにくい |
| 若手のモチベーションにつながりにくい | |
| 「長くいるだけで高額になる」ため、中高年層の退職金負担が重くなりがち |

長期雇用を重視する企業や人事制度がシンプルな企業に向いている仕組みだね。
基本給連動型
「退職時の基本給×支給率(勤続年数別)」で算出する方式です。昇給が退職金に直結するため日々のモチベーションにつながりますが、年功的に上昇した基本給がそのまま算出基礎となるため、最終的な支払い負担が想定以上に膨らむリスクがあります。
| 特 徴 | 「退職時の基本給 × 支給率」で算出 |
| 昇給がそのまま退職金に反映される | |
| メリット | 昇給=将来の退職金アップなので、日々の業績・評価がモチベーションに直結 |
| 管理職や専門職など、給与体系が明確な企業と相性が良い | |
| デメリット | 年功的に上がった基本給がそのまま算定基礎になるため、企業負担が読みにくい |
| 人件費コントロールが難しく、制度改定のハードルが高い | |
| 昇給制度が曖昧だと不公平感が生まれやすい |

昇給制度が明確で、評価と給与が連動しており、人件費の将来予測ができる規模の企業に向いている仕組みですね。
ポイント制・評価連動型
役職・資格・人事評価などをポイント化し、その累積で算出する方式です。若くして昇進した社員が、定年まで平社員だった先輩より多くの退職金を受け取るといった「逆転現象」も可能で、日々の貢献が将来の資産に直結する仕組みとして生産性向上に寄与します。
| 特 徴 | 役職・資格・評価などをポイント化し、累積ポイントで退職金を算出 |
| 貢献度をダイレクトに反映できる | |
| メリット | 若手でも昇進・評価次第で高い退職金を得られる「逆転現象」が可能 |
| 日々の成果が将来の資産に直結し、モチベーション向上につながる | |
| 生産性向上や優秀層の引き留めに効果的 | |
| デメリット | 制度設計・運用が複雑で管理コストが高い |
| 評価制度の透明性がないと不満が生まれやすい | |
| 短期成果に偏るリスクがある |

納得感のあるしっかりした評価制度が必要だけど、実力主義の企業には向いている仕組みだね。
ハイブリッド型(定額+評価ポイント)
「勤続年数による定額分(基礎)」と「評価によるポイント分(上乗せ)」を組み合わせる方式です。全員の生活保障を確保しつつ、貢献度の高い社員には厚く報いるというバランスの良い設計が可能です。
| 特 徴 | 「勤続年数による基礎部分」と「評価による上乗せ部分」を組み合わせる方式 |
| 公平性と成果主義のバランスを取れる | |
| メリット | 全社員に一定の生活保障を確保しつつ、貢献度の高い社員には厚く報いることができる |
| 年功序列と成果主義の両方を取り入れられる | |
| 制度変更時の社員の納得感を得やすい | |
| デメリット | 設計が複雑になりやすく、運用負担が増える |
| どこまで評価を反映させるかの線引きが難しい | |
| 両方の制度を理解させるための説明コストが必要 |

多様な社員層(若手〜ベテラン)が在籍しているような年功文化を残しつつ成果主義も取り入れたい企業に向いている仕組みですね。
代表的な準備手段の比較
退職金制度は「税制」、「柔軟性」、「運用リスク」、「従業員の安心感」など、複数の観点で特徴が異なります。単独で利用するだけでなく、複数を組み合わせることで会社に最適な制度を構築することもできます。 (例:中退共でベースを築き、特退共や企業型DCで功労分を上乗せするなど)
中小企業退職金共済(中退共)
国が運営・支援する中小企業向けの退職金共済制度です。掛金の一部に助成があり、掛金全額が損金算入できるなど税制上のメリットがあります。一方で、一律積立が基本のため、個別の評価を細かく反映させる設計には向きません。運用状況により給付額が変動する可能性はありますが、予定利率に基づく給付が基本で、従業員にとって安心感の強い制度です。
| 特 徴 | 国からの支援がある、中小企業のために設けられた制度 |
| メリット | 新規加入や掛金増額時に、国から掛金助成(補助金)が受けられる |
| 掛金は全額損金算入可能 | |
| 管理が外部(機構)なので、会社が倒産しても従業員の退職金は守られる | |
| デメリット | 1年未満の退職には支給されない。 2年未満だと掛金を下回る(元本割れ) |
| 「懲戒解雇だから払わない」といった柔軟な調整が難しい(原則、全額本人に支払われる) |

初めて退職金制度を導入する企業や、退職金の個別管理を簡略化したい企業に向いている制度ですね。
特定退職金共済制度
中退共と同様に掛金全額が損金算入できる公的共済制度で、1口1,000円から掛金を設定できるため、企業規模に応じて無理なく導入できます。中退共では加入1年未満の退職に給付がありませんが、特退共では短期加入でも給付を受けられる場合があり(元本割れの可能性はあります)、従業員への還元の確実性を高められます。地域密着の商工会議所や商工会が運営しているため、相談しやすい点も魅力です。
| 特 徴 | 地域の商工会議所や商工会が運営する公的な共済 |
| メリット | 1口1,000円からと、中退共(5,000円〜)より少額から始められる |
| 短期間の勤務でも給付を受けられる場合がある(元本割れリスクあり) | |
| 掛金は全額損金算入可能 | |
| 管理が商工会議所や商工会なので、会社が倒産しても従業員の退職金は守られる | |
| デメリット | 中退共のような国からの「直接的な掛金助成」はない |
| 予定利率が中退共より低い場合があり、将来の受取額が大きく増えることは期待しにくい |

中退共と似てた制度だけど、掛金が1,000円からだったり、短期間の勤務でも給付があったりするから、まだ雇用が安定していないという企業に向いている制度だね。
生命保険(養老保険・定期保険など)
保険料の全部または一部を損金として計上しながら、解約返戻金を退職金財源に充てる方法です。死亡保障と退職金積立を同時に準備できるメリットがありますが、近年の税制改正により、以前ほどの節税効果は期待しにくくなっています。また、早期解約時の元本割れリスクには注意が必要です。
| 特 徴 | 保険料を支払いながら解約返戻金を積み立て、退職時に解約して支払う |
| メリット | 死亡保障を確保できるため、在職中の死亡退職金や弔慰金の準備に最適 |
| 法人契約の形態により、保険料の一部を損金算入できる | |
| デメリット | 早期解約すると大きな元本割れが発生 |
| 近年の税制改正により、以前ほど高い節税メリット(全額損金など)は得られなくなった |

退職金のと死亡保険をあわせて準備したい場合や役員等の退職金の準備に向いています。
企業型確定拠出年金(企業型DC)
会社が掛金を拠出し、従業員が自ら運用する制度です。会社側は掛金拠出時点で将来の支払い義務が完結し、運用リスクを負いません。掛金は全額損金算入でき、従業員にとっても運用益が非課税となるなど、効率的な資産形成を支援できます。
| 特 徴 | 会社が掛金を出し、従業員が自分で運用商品を選んで老後資金を作る |
| メリット | 会社は掛金を出すだけで、将来の運用リスク(積み立て不足)を負わない |
| 掛金は全額損金算入可能 | |
| 従業員にとっても運用益が非課税 | |
| デメリット | 制度の導入・維持に事務手数料がかかる |
| 投資教育など、従業員へのサポートが義務付けられている |

NISAやiDeCoに興味がある従業員が多い企業には向いていそうだね。
企業型確定給付年金(企業型DB)
自社で年金基金を設立する、または外部機関と契約して将来の給付額を約束する制度です。中退共と比べて掛金設定や給付ルールを柔軟に設計でき、全額損金算入も可能です。ただし、会社が運用リスクを負うため、積立不足が生じた場合には追加拠出が必要となります。
| 特 徴 | 会社が運用責任を負い、従業員に約束した額を給付 |
| メリット | 給付設計が自由で「役職や貢献度」を強く反映させた制度作りができる |
| 掛金は全額損金算入可能 | |
| 従業員にとっては、将来もらえる額が確定しているため安心感がある | |
| デメリット | 運用がうまくいかない場合、会社が追加で不足分を拠出(穴埋め)しなければならない |
| 導入のハードル(審査や事務負担)が最も高い |

従業員をしっかり評価してあげたい企業や収益が安定している企業に向いていますね。
自社積立(内部留保)
社内預金で準備する方法は資金使途が自由である一方、退職給付引当金は損金不算入であり、税制上の優遇がありません。また、退職が重なった際の資金流出リスクや、貸借対照表に表れない潜在的負債が事業承継の足かせとなる可能性があります。
| 特 徴 | 特定の制度を使わず、退職金規程に基づいてその都度キャッシュで支払う |
| メリット | 資金使途が自由で 普段は運転資金として回し、必要な時だけ支払える |
| 手数料や複雑な契約手続きが一切不要 | |
| デメリット | 積立時(引当時)には損金にならず、税制メリットが全くない |
| 退職者が重なると、一気にキャッシュフローが悪化するリスクがある |

今の企業経営ではおすすめできない方法だね。
おわりに
退職金の準備方法は多岐にわたるため正解はありません。とはいえ重要なのは、「自社にとっての必要性」を見極め、リスクを最小限に抑えつつ、社員に最大限報いることができる制度を設計することかと思います。
また、退職金制度は一度導入すると「労働条件としての法的権利」となるため、後から会社都合で内容を変更することは困難です。導入にあたっては、退職金規程をしっかり整備しておく必要があります。退職金制度自体も時代の移り変わりとともに新しい仕組みが増えていますので、規程自体も定期的に見直しして企業、従業員双方にとって良い制度にしていただければと思います。

