給与計算において、1円未満や1分単位の端数をどう扱うかは、労働基準法第24条「賃金全額払いの原則」に関わる重要な問題です。その処理方法も厚生労働省の通達による方法を中心にある程度定められています。他にも社会保険料や雇用保険料の控除などの場合に迷うこともあるかもしれません。ここではその端数をどう処理すべきかをまとめていこうと思います。
賃金や労働時間の端数処理は認められるのか?
まず労働基準法第24条で定められている賃金支払い5原則において、「賃金はその全額を支払わなければならない」と定められており、会社が勝手に賃金支払い額の100円未満を切り捨ててしまったり、1円未満の端数を切り捨ててしまうことはこの原則に違反する可能性があります。
ただし、事務処理の効率化を目的に一部の処理では例外として端数処理が認められている方法もあります。
昭和63年3月14日(基発150号)
昭和63年に今の厚生労働省から端数処理の取り扱いに関する通達がでていますので、その内容から確認していきます。
遅刻、早退、欠勤等の時間の端数処理
まずは遅刻や早退等は分単位で控除しなければいけないという原則です。
5分の遅刻を30分として賃金カットするというような処理は、労働の提供のなかった限度を超えるカット(25分についてのカット)について、賃金の全額払いの原則に反し、違法である。なお、このような取扱いを就業規則に定め減給の制裁として、法第91条の制限内で行う場合には、全額払いの原則に反しないものである。
賃金支払いの大原則として、労働者が「労務」を提供していない場合、企業はその時間分の賃金を支払う義務はないという(ノーワーク・ノーペイの原則)。この原則に基づき、逆に賃金を控除できるのは、あくまで労務の提供がなされなかった時間に限るということになります。
したがって、上の例では5分の遅刻をした従業員に対して控除できる賃金はあくまで5分に対する部分に限られるため、これを超えて30分控除してしまうと25分の控除は違法ということになります。
減給の制裁

でも上の例では「法第91条の制限内で行う場合には、全額払いの原則に反しない」となっているけどこれはどういうことなのかな?
正当な理由なく遅刻、早退、または欠勤してしまい、就業規則で定める懲戒事由に該当するときは減給の制裁をに処される場合があります。減給の制裁はあくまで懲戒処分であり欠勤に対する控除とは異なります。
そのため、減給の制裁としての処分であれば、遅刻や欠勤した時間を超えた分の額を控除することができるが、それは労働基準法第91条の制限内で行うことということが明記されているということですね。
就業規則で、労働者に対して減給の制裁を定める場合においては、その減給は、一回の額が平均賃金の一日分の半額を超え、総額が一賃金支払期における賃金の総額の十分の一を超えてはならない。
次の2つの制限が課せられているということですね。
- 1回の減給額が、平均賃金の1日分の半額を超えないこと
- 減給する総額が、一賃金支払期における賃金の総額の10分の1を超えないこと

ちなみにここでいう平均賃金とは、その事由の発生した日(制裁処分の日)以前3カ月間に、その労働者に支払われた賃金の総額を、その期間の総日数(暦日数)で除した金額となります。(労働基準法第12条)
一賃金支払期間とは、減給となる時点の支払い期間のことであり、遅刻や早退のあった時点のことではありません。
割増賃金計算における端数処理
次に事務を簡便化するために認められている割増賃金計算における3つの端数処理方法です。
| (1) | 1カ月における時間外労働、休日労働及び深夜業の各々の時間数の合計に1時間未満の端数がある場合に、30分未満の端数を切り捨て、それ以上を1時間に切り上げること。 |
| (2) | 1時間当たりの賃金額及び割増賃金額に円未満の端数が生じた場合、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げること。 |
| (3) | 1カ月における時間外労働、休日労働、深夜業の各々の割増賃金の総額に1円未満の端数が生じた場合、(2)と同様に処理すること。 |

(2)は1時間当たりの賃金額と1時間当たりの割増賃金額の両方とも円未満の端数処理が認められているんだね。
1カ月の賃金支払期における端数処理
次は1カ月の賃金支払期における端数処理です。
| (1) | 1カ月の賃金支払額(賃金の一部を控除して支払う場合には控除した額。)に100円未満の端数が生じた場合、50円未満の端数を切り捨て、それ以外を100円に切り上げて支払うこと。 |
| (2) | 1カ月の賃金支払額に生じた1,000円未満の端数を翌月の賃金支払日に繰り越して支払うこと。 |

これはその昔、給与を「現金」で手渡ししていた時代、小銭を用意する手間を省くために作られた合理的なルールでしたが今の時代は銀行振り込みが主流なので利用している企業はほとんどないと思います。
不就労控除(遅刻、早退、欠勤)の場合の端数処理
不就労控除(遅刻、早退、欠勤)をする場合の控除額における端数処理です。
遅刻、早退、欠勤など不就労分を控除する場合の端数処理については法的な定めは特にありません。特に法律で規定されていませんが労働者に不利益が及ばないよう、端数は切り捨てすることが妥当とされています。そのため端数処理方法については就業規則等で定めておく必要があります。

従業員の給料から控除する額を計算するわけだから切り捨てしてあげれば控除額が少なくなるからだね。

定めをする場合はあわせて小数点第何位までとするかを明記しておくと良いですね。第2位~第3位まで一般的であり推奨されています。
ちなみに控除の計算方法は次のページに掲載していますのでご参照ください。
月平均所定労働時間数
月平均の所定労働時間数は月給日給制のように給与が月額で決まっている人の残業代計算における基礎賃金(時間単価)を求める過程で必要になります。
月平均所定労働時間の端数処理に関しては、特に法律で規定されていませんが労働者に不利益が及ばないよう、切り捨てすることが妥当とされています。そのため端数処理方法については就業規則等で定めておく必要があります。
簡単な計算例で確認します。
- 基本給:300,000円
- 年間休日数:120日
- 1日の所定労働時間:8時間
この条件で残業代計算における基礎賃金を算出します。
- 年間所定労働時間=(365日-120日)×8時間=1,960時間
- 月平均所定労働時間=1,960時間÷12ヵ月=163.333・・・→163.33時間
- 小数点第2位までを使用します。
- 1時間あたりの基礎賃金=300,000円÷163.33時間=1,836.772→1,837円
- 1時間当たりの賃金額なので、50銭未満の端数を切り捨て、それ以上を1円に切り上げします。

この例では残業代計算における端数処理なので月平均所定労働時間数は切捨てしていますが、不就労控除の計算過程の場合、労働者に不利益が及ばないようにするためには逆に切り上げすることが妥当ということになります。
平均賃金
平均賃金とは労働基準法第12条で定められており、解雇予告手当、休業手当、年次有給休暇の賃金、災害補償、減給の制裁の限度額などのを算出する際に使われます。
平均賃金の計算方法
平均賃金=3カ月間に支払われた賃金総額÷3カ月間の総日数

この3カ月は暦日で算定事由が発生した当日は含めずにカウントします。算定事由が2月5日に発生した場合、11月5日から2月4日までの3か月が算定期間になります。なお、賃金締切日がある場合は、算定事由の発生した日の直前の賃金締切日を起算日とすることになります。
日給制や時給制などの場合、平均賃金が低くならないように「最低保障額」が設けられています。
最低保障額 = (支払賃金総額 ÷ 実労働日数) × 60%

平均賃金を計算する場合は、まず通常の方法で計算してからそれを最低保障額を比べて高い方を使うことになるんだね。
平均賃金の端数処理
平均賃金の端数処理は次の2つのルールがあります。
- 平均賃金1日分の端数処理
- 1銭未満(小数第3位)の端数がある場合は切り捨て
- 実際に手当を支払うとき
- 1円未満の端数は50銭未満切り捨て、それ以上切り上げ
簡単な計算例をあげてみます。
- 休業手当を5日分支払い
- 月給:280,000円
- 算定期間:91日
この条件で計算しています。
- 平均賃金:840,000円÷91日=9,230.76銭92厘 → 9,230.76円
- 1銭未満の端数を切り捨て
- 休業手当1日の額:9,230.76円×60%=5,538.456円
- 休業手当として平均賃金の60%を支給
- 休業手当額:5,538.456円×5日=27,692.28 → 27,692円
- 1円未満の端数を四捨五入
労災の給付基礎日額
労災保険の給付基礎日額とは、実際の労災保険給付額を算出する方法として用いられます。計算方法は上でとりあげた平均賃金と同じですが、端数処理については次の違いがあります。
- 給付基礎日額の端数処理
- 1銭未満の端数がある場合は切り上げ
- 給付額の端数処理
- 給付額に円未満の端数がある場合は切り捨て

労災保険の給付基礎日額は基本的な計算方法は平均賃金と同じになりますが端数処理方法に違いがあります。
社会保険料
厚生年金保険料と健康保険料・介護保険料の取り扱いです。
従業員負担分
それぞれ会社と従業員が折半して支払いますので、会社が従業員の給与から天引きする際の端数処理について確認します。
折半した額を従業員給与から天引きする際に、その端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭を超える場合は切り上げて1円とします
※従業員が現金で支払う場合
被保険者負担分の端数が50銭未満の場合は切り捨て、50銭以上の場合は切り上げとなります。

ちなみに厚生年金保険料の場合、現在の保険料額表であれば折半額に1円未満の端数が出ることはありません。
会社負担分
端数処理の関係で会社負担分と従業員負担分は同じ金額にならない場合があります。実際の会社負担分は【年金事務所からの納入告知額 ー 従業員負担分】で計算されるため、端数処理をしたことにより不足となる額は会社が負担することになります。
雇用保険料
雇用保険料も会社負担分と従業員分がありますの。
従業員負担分
まず会社が従業員の給与から天引きする従業員負担分の端数処理方法を確認します。
従業員負担分を賃金から源泉控除する場合、被保険者負担分の端数が50銭以下の場合は切り捨て、50銭1厘以上の場合は切り上げとなります。
※従業員が現金で支払う場合
被保険者負担分の端数が50銭未満の場合は切り捨て、50銭以上の場合は切り上げとなります。

ちなみに雇用保険料は会社と従業員が折半ではなくて、決まった料率を使うんだよね。

雇用保険の料率は会社と従業員とで折半ではありません。その料率も毎年4月に見直されますので忘れずに確認しましょう。
会社負担分
会社は給与から天引きした従業員負担分と会社負担分の合計を国に納めることになりますが、その計算過程で次のようにとり扱います。
- 賃金総額:1,000円未満切り捨て
- 概算保険料の額又は確定保険料の額:1円未満切り捨て
簡単な計算例をあげてみます。労働保険の年度更新ですね。
- 従業員の賃金総額:1,255,355円
- 雇用保険料率:14.5/1,000
この条件で確定保険料を計算しています。
- 賃金総額の1,000円未満を切り捨て:1,255,355円 → 1,255,000円
- 雇用保険の確定保険料額:1,255,000円×14.5/1,000=18.197.5円 → 18,197円
- 確定保険料額の1円未満切り捨て

ちなみに労災保険料は全額会社負担ですが計算方法は同様です(一括有期事業は除きます)。ただ、厳密には労災保険と雇用保険をあわせて計算する場合やそれぞれ分けて計算する場合もあります。この例はあくまで一例ということでご参照ください。
おわりに
残業代などを計算する際に端数処理をどうするかは意外と迷うところではないでしょうか。最近では勤怠管理システムと連携していれば残業代なども計算してくれますが、その処理方法を登録しておかなければいけないですし、就業規則に端数処理方法まで定めていないということおもあると思います。
端数処理の影響は短時間であれば少ないですが積み重なると思ったより大きな金額になりますので、企業側はしっかりと就業規則に定めをしてそのとおりに運用することをお勧めしています。

