出産や育児については社会保険や雇用保険の制度が複数あり、いつどんな手続きが必要となるか混乱する場合があります。会社が行う手続きもあれば本人が直接行うものもあり、いつ・誰が・どんな手続きを行うのか、ということを時系列に沿って整理してみたいと思います。
今回は企業の手続きで最も多いパターンとなる、就業中の女性が出産する場合をイメージしてまとめてみます。
産前産後休業前
まず、就業中の女性が妊娠したため産休や育休の準備を進めるところからです。
産前産後休業の申出と確認
まずは妊娠した方が会社に報告し、産前産後休業の申出を行います。
| 目的 | 従業員から会社に妊娠を報告し、産前産後休業を取得する旨の申出をしてもらいます。 |
| 申出時期 | 出産予定日の6週間前までに(会社規定に定めがある場合は規定による) |
| 手続きの流れ | 従業員 → 会社 |

従業員から会社への報告ということで、特に行政機関への手続きではないんだね。

口頭での報告の場合もあれば、企業によっては「産前産後休業届」のような所定の様式が決まっている場合もありますよ。
企業は報告を受けたら次の点を本人に確認しておきましょう。
- 出産予定日
- 妊娠中の勤務形態の希望
- 産前産後休業をふまえた最終出社日
- 育児休業の取得予定
- 出産や育児に関する手続きの案内と、必要となる書類の提出を依頼
次の項目で取りあげますが育児休業も同時に申し出をしてもらうことが一般的です。
育児休業の申出と確認
一般的には産前産後休業終了後、引き続いて育児休業に入るため、その育児休業の申出をしてもらいます。
| 目的 | 従業員が会社に育児休業(原則として子が1歳の誕生日の前日まで)を取得する旨の申出をしてもらいます。 |
| 申出時期 | 遅くとも休業開始1か月前までに会社に育児休業申出書を提出(書面にて) 会社規定に定めがある場合は規定による(実際は産休に入る前) |
| 手続きの流れ | 従業員 → 会社 |

こちらもあくまで従業員から会社への報告ということだね。

とはいえこちらは書面での申出が必要です。この書面は行政機関に提出するものではありませんが、実際には育児休業給付の申請等した際には添付を求められます。
申出時期は休業開始1カ月前ですが、実際には産前産後休業に入っていますので、産前産後休業と同時に申出をしてもらうことになります。
育児休業の準備
育児休業の申出を受けたら、企業はその申出を受理することを通知する必要があります。
| 目的 | 育休の申出があった場合に、会社が申出者に対し、育児休業期間中もしくは職場復帰した際の取扱いについて文書で通知します。 |
| 通知書類 | 育児休業取扱通知書 |
| 申出時期 | 申出日から2週間以内(実際は産休に入る前) |
| 手続きの流れ | 従業員 → 会社 |

書面の交付は努力義務となっていますが、次の3点の通知は義務となりますので書面を交付したほうが間違いありません。
- 育休の申し入れを受けた旨
- 育児休業開始予定日および終了予定日
- 育児休業の申出を拒否する場合にはその旨およびその理由
参考に育児休業申出書や通知書の厚生労働省のひな型を載せておきます。
産前産後休業開始~終了まで
続いて産前休業開始以降の手続きをみていきます。
社会保険料免除の申請(産前産後休業期間中)
まずは産前産後休業期間中の社会保険料の免除申請です。育児休業期間中も免除になりますが、申請はそれぞれ行う必要があります。
| 目的 | 産休期間中の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が「産休開始日の属する月から終了日の翌日が属する月の前月」まで免除されます。 |
| 申請書類 | 産前産後休業取得者申出書 |
| 添付書類 | 特になし |
| 申請時期 | ※詳細は表の下に記載 産前産後休業期間中または産前産後休業終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に提出 |
| 手続きの流れ | 会社 → 日本年金機構または管轄の年金事務所(電子申請、窓口、郵送) |
産前産後休業期間中または産前産後休業終了後の終了日から起算して1カ月以内の期間中に提出

保険料は企業・従業員ともに免除となります。免除期間中も被保険者資格に変更はなく、将来、年金額を計算する際は、保険料を納めた期間として扱われます。
子供の健康保険加入手続き
生まれた子供を健康保険の扶養に入れる手続きをします。
| 目的 | 生まれた子どもを従業員の健康保険の扶養に入れます。 |
| 申請書類 | 健康保険被扶養者異動届 |
| 添付書類 | ※詳細は表の下に記載 (1) 戸籍謄(抄)本または住民票の写し (2) 収入金額が確認できる書類 |
| 申請時期 | 出産日から5日以内 |
| 手続きの流れ | 会社 → 日本年金機構または管轄の年金事務所(電子申請、窓口、郵送) |
- 戸籍謄(抄)本または住民票の写し(コピー不可・個人番号の記載のないもの)
- 続柄の確認のため、提出日から90日以内に発行されたもの
- 被保険者と扶養認定を受ける方の個人番号が記載され、上記書類により事業主が続柄を確認し、備考欄の「※続柄確認済み」の□に✓を付している場合は不要
- 収入金額が確認できる書類
- 扶養親族であることを事業主が確認し、事業主確認欄の「確認」を○で囲んでいる場合は不要なし

ちなみに夫婦共働きの場合はどちらの扶養にいれるのかな?

夫婦共働きの場合、収入が高いほうの扶養に入れることが原則となります。どちらの扶養に入れるのかを選ぶことはできないのですが、年収の差が1割以内であれば自由に選んでも問題ないですよ。
出産育児一時金の申請
出産にかかる費用の一部を健康保険から支給してくれる制度です。
| 目的 | 出産費用に充てるための一時金(健康保険)が支給されます。(医療機関への直接支払制度を利用することが一般的です)。 支給額は一児につき50万円(産科医療補償制度に加入していない医療機関等で出産した場合または妊娠週数22週未満の出産の場合は48.8万円)となります。 |
| <直接支払制度の場合> | |
| 手続方法 | 本人が出産する医療機関等で「直接支払制度を利用する旨」の署名 |
| 手続きの流れ | 本人 → 医療機関 |

出産育児一時金の額と実際の出産費用との差額はどうなるの?

出産費用が出産育児一時金を超える場合、本人が超過額を医療機関に支払うことになります。逆に出産費用が出産育児一時金を下回る場合、本人が健康保険組合へ差額分を請求します。
差額の請求方法は「健康保険出産育児一時金内払金支払依頼書」と「健康保険出産育児一時金差額申請書」の2種類があります。医療機関等への支給が終了したら「支給決定通知書」が届きますが、この通知が届く前に請求する場合は「内払金支払依頼書」にて請求することになります。ただ「内払金支払依頼書」は添付資料が色々必要ですが、「差額申請書」であれば添付資料は不要です。そのため急ぎでなければ「差額申請書」を利用したほうが手続きは簡単にできますよ。
なお、直接支払い制度のほかに、受取代理制度(医療機関が代理で受け取り、出産費用に充当)や事後申請(出産後に本人が保険者へ申請し後日、振込)があります。
出産手当金の申請
産前産後休業中に給与の支払いを受けなかった場合は健康保険から出産手当金が支給されます。
| 目的 | 産前産後休業期間中で賃金が支払われなかった日について、出産手当金(健康保険)が支給されます。 支給額は「1日あたりの金額=支給開始日の以前12ヵ月間の各標準報酬月額を平均した額÷30日×2/3」で計算します。 |
| 申請書類 | 健康保険出産手当金支給申請書 |
| 添付書類 | 特になし |
| 申請時期 | 出産後57日目以降(産後休業明け) 、産前・産後休業期間分をまとめて申請、申請期限は、産休を開始した日の翌日から2年以内(産休終了後にまとめて申請するのが一般的) |
| 手続きの流れ | 会社 → 協会けんぽ(郵送または窓口)または健康保険組合 ※詳細は下に記載 |
- 企業から本人へ「出産手当金支給申請書」を渡す
- 本人が必要事項を記入する
- 本人が医師または助産師に必要事項を記入してもらう
- 本人が企業へ提出
- 企業は必要事項を記入し協会けんぽまたは健康保険組合に提出

ちなみに出産手当金は健康保険独自の制度となっているため、国民健康保険からは支給されません。
育児休業開始時
続いて育児休業開始時の手続きについて見ていきます。
社会保険料免除の申請(育児休業期間)
産前産後休業期間中も社会保険料が免除となりますが、育児休業期間中も同様に免除となりますので、忘れずに申請が必要です。
| 目的 | 育休期間中の社会保険料(健康保険料、厚生年金保険料)が「育児休業を開始した月の初日から、育児休業が終了する日の翌日の属する月の前月まで」免除されます。 |
| 申請書類 | 育児休業等取扱申出書 |
| 添付書類 | 特になし |
| 申請時期 | 育児休業等期間中または育児休業等終了後の終了日から起算して1カ月以内 |
| 手続きの流れ | 会社 → 日本年金機構または管轄の年金事務所(電子申請、窓口、郵送) |

育児休業期間中の社会保険料免除は産前産後休業とは別で申請をしないといけないんだね。
育児休業給付金・出生後休業支援給付金の申請(初回)
続いて育児休業期間中に給付される育児休業給付金と2025年4月より創設された出生後休業支援給付金の申請手続きです。
| 目的 | 育児休業中の生活を保障するための育児休業給付金・出生後休業支援給付金(雇用保険)の支給を申請します。 |
| 申請書類 | 「雇用保険被保険者休業開始時賃金月額証明書」および「育児休業給付受給資格確認票・(初回)育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書」 |
| 添付書類 | ※下に記載 |
| 申請時期 | 受給資格確認手続と初回の支給申請を同時に行う場合、被保険者の育児休業開始日から起算して4か月を経過する日の属する月の末日まで |
| 手続きの流れ | 会社 → ハローワーク(本人がハローワークへ提出することも可能) |
- 育児休業を開始・終了した日、賃金の額と支払状況を証明できるもの
- 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿、タイムカード、育児休業申出書、育児休業取扱通知書など
- 育児の事実、出産予定日及び出生日を確認することができるもの(写し可)
- 母子健康手帳(出生届出済証明のページと分娩予定日が記載されたページ)
- 住民票、医師の診断書(分娩(出産)予定日証明書)など
- 出生後休業支援給付金の支給要件を満たしていることが確認できる書類(配偶者がいない場合など)

受給資格の確認と初回の申請は別々に行うこともできますよ。
育児休業期間中
育児休業期間中は引き続き育児休業給付の手続きを行います。
育児休業給付金・出生後休業支援給付金の申請(2回目以降)
育児休業給付金は2カ月おきに申請するため引き続き手続きが必要です。
| 目的 | 育児休業給付の申請は2カ月おきに行うことになります。 |
| 申請書類 | 「育児休業給付金/出生後休業支援給付金支給申請書(ハローワークが交付)」 |
| 添付書類 | 賃金台帳、労働者名簿、出勤簿、タイムカードなど |
| 申請時期 | 支給単位期間の末日の翌日から起算して2年を経過する日まで |
| 手続きの流れ | 会社 → ハローワーク(本人がハローワークへ提出することも可能) |

2回目以降の申請書類はハローワークが発行してくれるのでそれを使用することになります。
職場復帰後
続いて職場復帰後ですが、それぞれ該当した場合に手続きをすることになります。
育児休業等終了時報酬月額変更届の提出
職場復帰後に給与が低下したという場合、社会保険料の基礎となる標準報酬月額を定時決定の時期を待たずに変更することができます。
| 目的 | 育児休業終了後、時短勤務などで給与が低下した場合、社会保険料の計算基礎となる標準報酬月額を実態に合わせて変更します(復帰後3ヶ月間の給与平均に基づき、4ヶ月目から適用)。 |
| 申請書類 | 「育児休業等終了時報酬月額変更届」 |
| 添付書類 | 不要 |
| 申請時期 | 速やかに |
| 手続きの流れ | 会社 → 日本年金機構または管轄の年金事務所(電子申請、窓口、郵送) |
養育期間の従前標準報酬月額特例の申出
養育期間中(子供が3歳になるまで)、給料が下がり社会保険料の基礎となる標準報酬月額が下がったとしても、将来受け取る年金額の基礎となる額を給料が下がる前の標準報酬月額を使って計算してもらうことができます。
| 目的 | 子が3歳になるまで、将来の年金額を計算する際には、育休等により標準報酬月額が下がっていても、下がる前の標準報酬月額を基礎とすることができます。 |
| 申請書類 | 「厚生年金保険 養育期間標準報酬月額特例申出書」 |
| 添付書類 | 戸籍謄(抄)本または戸籍記載事項証明書 ※事業主による確認で省略可 住民票の写し(原本) ※親と子の個人番号記載で省略可 |
| 申請時期 | 速やかに |
| 手続きの流れ | 会社 → 日本年金機構または管轄の年金事務所(電子申請、窓口、郵送) |

育児休業等終了時の報酬月額の変更と養育期間の標準報酬月額の特例は同時に適用できるの?
育児休業後に職場復帰して給料下がったら「育児休業等終了時報酬月額変更届」で社会保険料を減らしつつ、「養育期間の従前標準報酬月額特例の申出」をすれば将来の年金額も減らされないよね?

この二つの特例を同時に適用することもできますので、両方を利用する場合は、同時に手続きを行うことになりますね。
育児時短就業給付金の申請
こちらも2025年4月より新設された制度になります。2歳に満たない子を養育するために時短勤務 を行い、育児時短就業前と比較して賃金が低下するなどの一定の要件を満たした場合に支給されます。
| 目的 | 2歳に満たない子を養育するために時短勤務(以下「育児時短就業」という。) を行い、育児時短就業前と比較して賃金が低下するなどの一定の要件を満たした場合に支給されます。一般的な支給額は「支給対象月に支払われた賃金額 × 10%」になります。 |
| 申請書類 | 「育児時短就業給付受給資格確認票」、「所定労働時間短縮開始時賃金証明書」 ※育児休業給付の対象となる育児休業から引き続き、同一の子について育児時短就業を開始した場合は、育児時短就業開始時賃金の届出は不要。 |
| 添付書類 | 下に記載 |
| 申請時期 | 最初の支給対象月(育児時短就業開始日の属する月)の初日から起算して4カ月以内 |
| 手続きの流れ | 会社 → ハローワーク |
詳細は厚生労働省のパンフレットで確認しみてください。
おわりに
近年はこういった制度がかなり充実しており、細かくみていけば「母性健康管理の措置」や育児休業の「パパママ育休プラス」など状況に応じて必要な措置もありますが、全体像を把握するためひとまず大まかな流れということでまとめてみました。
なお、それぞれの制度については簡単に載せているため、実際に申請等する際は厚生労働省のHPなどで詳細を確認してください。

