企業が整備する相談窓口をまとめてみる

労務関係

企業には、社員・派遣社員・フリーランス・顧客など、多様な立場の人から寄せられる相談に適切に対応する体制が求められていますが、その相談窓口に関する規定は複数の法律に分散しており、名称も義務範囲も統一されていません。そのため企業側からみると「どの相談窓口を、どこまで整備する必要があるのか」ということがよく分からないのではないでしょうか。

2024年にはフリーランス保護新法による相談窓口の設置も義務付けられたほか、2025年には カスタマーハラスメント対策も義務化されます。そのため、今回は企業が整備すべき相談窓口を法的義務をふまえてまとめてみたいと思います。

企業に求められる相談窓口(一覧)

まず企業に求められている相談窓口を一覧にしてまとめてみます。

窓口名義務・努力義務根拠法令
ハラスメント相談窓口義務労働施策総合推進法
男女雇用機会均等法
派遣労働者の苦情処理窓口義務労働者派遣法
健康相談に応じる体制努力義務労働安全衛生法
フリーランス相談体制義務フリーランス保護新法
個人情報取扱い問合せ窓口義務個人情報保護法
カスハラ相談体制義務化予定労働施策総合推進法
育児休業等相談体制選択義務育児介護休業法
介護休業等相談体制選択義務育児介護休業法
内部通報窓口努力義務公益通報者保護法
メンタルヘルス相談体制努力義務労働安全衛生法
両立支援相談体制努力義務次世代育成支援対策推進法
女性活躍推進法
障害者雇用相談体制努力義務障害者雇用促進法
安全衛生相談体制努力義務労働安全衛生法(指針)

ここからは、それぞれの窓口について確認してきます。

ハラスメント相談窓口

従業員が職場でのハラスメントに関する不安・悩み・被害を安心して相談できるために企業が設置する公式の窓口です。法律上も設置が求められており、企業のコンプライアンスや働きやすい職場づくりに欠かせない仕組みになっています。

根拠法令
・労働施策総合推進法第30条の2
・男女雇用機会均等法第11条・第11条の3
法律の背景
パワハラ・セクハラ・マタハラについて、企業には「相談に応じ、適切に対応するための体制整備」が義務付けられています。
企業に求められる水準
相談窓口の連絡先を明示し、相談者が安心して相談できる環境を整える必要があります。相談が寄せられた際には、迅速かつ公平に事実確認を行い、相談者が不利益を受けないよう配慮しながら、必要な措置を講じることが求められます。
企業の実務ポイント
相談窓口の担当者が適切な聞き取り方法や二次被害防止の知識を備えているかどうかが重要になります。相談内容を必要以上に共有するとプライバシー侵害につながるため、情報管理のルールを明確にし、外部窓口を併設することで社内に相談しづらいケースにも対応できる体制を整えることが望まれます。また、

再発リスクを抑えるためにも、相談後の継続的なフォローも大切だよね。

派遣労働者の苦情処理窓口

派遣労働者が仕事中に感じた不満・トラブル・疑問を安全に相談できる窓口のことです。労働者派遣法では、派遣元・派遣先の双方が苦情を受け付け、適切に処理する体制を整えることが義務とされています。

根拠法令
・労働者派遣法第49条
法律の背景
派遣元・派遣先の双方に苦情処理体制の整備が義務付けられています。
企業に求められる水準
派遣契約書に窓口を明記し、派遣労働者がどこに相談すべきか迷わないようにする必要があります。苦情内容に応じて、労働条件に関する問題は派遣元、職場環境に関する問題は派遣先が対応するなど、役割分担を明確にしたうえで連携して改善を進めることが求められます。
企業の実務ポイント
派遣元と派遣先の連携不足がトラブルの原因になりやすいため、苦情が寄せられた際に責任の押し付け合いが起きないよう、情報共有のルールを事前に取り決めておくことが重要です。

派遣先が「派遣元の問題」と誤解して苦情を放置してしまうケースもあるため、双方が自らの役割を正しく理解しておく必要があります。

健康相談に応じる体制

労働安全衛生法における健康相談に応じる体制とは、従業員が心身の不調や健康上の不安を気軽に相談でき、必要な助言や医師へのつなぎができるように、事業者が整備すべき相談体制のことです。

根拠法令
・労働安全衛生法第66条の8
・労働安全衛生法第69条
法律の背景
健康相談窓口の設置ではなく、相談に応じられる体制の整備が努力義務です。
企業に求められる水準
企業に求められる水準は、相談窓口の明確化・相談しやすい環境・産業医等への連携ルートの確保が基本です。従業員が心身の不調を気軽に相談でき、必要に応じて専門家につなげられる体制を整えることが求められます。小規模事業場は地域産業保健センターの活用で代替できます。
企業の実務ポイント
メンタル不調者の早期発見が大きな課題となります。相談体制が形だけになっている企業では、社員が不調を抱えたまま放置されるケースが多いため、相談先が人事なのか産業医なのかを明確にし、社員に周知することが重要です。また、相談内容の記録を適切に管理し、必要に応じて関係部署と連携できる体制を整えておくことが求められます。

法律上は努力義務だけど、実務ではほぼ必須の窓口となるよね。

フリーランス相談体制

発注事業者はフリーランスに対して ハラスメント防止のための体制整備を行う義務があるとされています。体制整備の中では実質的に相談窓口の設置に近い仕組みが必要となっています。

根拠法令
・フリーランス新法第12条
法律の背景
2024年施行。フリーランスからの相談に対応する体制整備が義務になっています。
企業に求められる水準
契約・報酬・ハラスメントなどの相談に対応できる窓口を明確にし、契約書や発注書に窓口情報を記載する必要があります。
企業の実務ポイント
フリーランスからのハラスメント相談に応じる体制が求められ、担当部署や担当者の明確化、相談受付方法(メール・フォーム等)の周知、相談内容の記録と事実確認、再発防止策の実施が必要です。相談を理由とした不利益取扱いは禁止され、外部窓口の活用も可能です。

社員向け窓口と混同されやすいため、相談内容の性質に応じて担当者を分けるなどすることが望まれています。

個人情報取り扱い問い合わせ窓口

利用者(顧客・従業員など)が自分の個人情報について確認・請求・苦情申出を行えるようにするための窓口で、企業はこれを明確にし、適切に運用する必要があります。

根拠法令
・個人情報保護法第32~35条
法律の背景
本人からの開示・訂正・利用停止請求に応じるため、窓口が必須です。
企業に求められる水準
本人確認手続きや請求への対応フローを整備し、期限内に適切に対応できる体制を整える必要があります。
企業の実務ポイント
本人確認が不十分だと第三者に情報を渡してしまうリスクがあるため、厳格な確認手続きが必要です。また、対応が遅れると行政指導の対象となるため、担当部署の役割分担を明確にしておくことが重要です。

マイナンバーを取り扱う場合はさらに厳格な対応が必要になるようだね。

カスタマーハラスメント相談体制

2026年より総合的なカスハラ防止措置が義務化され、その中で相談窓口の設置が求められます。

根拠法令
・労働施策総合推進法第30条の2
法律の背景
2025年の指針改正で義務化される見込みです。
企業に求められる水準
カスハラの定義を明確にし、相談が寄せられた際の初動対応フローを整備する必要があります。
企業の実務ポイント
通常のクレームとカスハラの線引きが曖昧になりやすいため、判断基準を明確にしておくことが重要です。また、担当者が「顧客第一」の意識を優先しすぎると被害社員を守れないため、適切な対応方針を共有しておく必要があります。

相談窓口のほかにも、カスハラ対応マニュアルの作成・改訂、現場の従業員向け研修の実施、顧客対応ルールの明文化、相談記録の管理方法の整備、外部専門家(弁護士など)との連携体制の構築などの対応が求められる見込みです。

育児休業等相談窓口

2022年の育児介護休業法改正により、育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置が義務化されました。その中で4つの措置のうち1つ以上を選択する必要があり、うちの1つが相談窓口の設置となっています。いずれかを選択すればよいため、必ずしも相談窓口の設置が必要というわけではありませんが、相談窓口の設置を選択する企業も少なくありません。

根拠法令
・育児介護休業法第21条
法律の背景
育児休業を取得しやすい雇用環境の整備の措置として、4つの措置のから育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)を選択した場合に設置が必要です。
企業に求められる水準
育児休業や時短勤務などの制度について、社員が安心して相談できる体制を整える必要があります。制度の内容や手続き方法を分かりやすく説明し、上司との調整や職場復帰支援まで含めた一貫したサポートが求められます。
企業の実務ポイント
上司が制度を十分に理解していないことが相談の妨げになるケースが多いため、管理職教育が欠かせません。また、相談しやすい雰囲気づくりも重要で、制度利用者が「迷惑をかけている」と感じないような職場環境が求められます。

「育児休業・産後パパ育休に関する研修の実施」、「育児休業・産後パパ育休に関する相談体制の整備(相談窓口設置)」、「労働者の育児休業・産後パパ育休取得事例の収集・情報提供」、「労働者へ育児休業・産後パパ育休制度と育児休業取得促進に関する方針の周知」のうち1つ以上を実施しないといけないんだよね。

介護休業等相談窓口

育児休業等相談窓口と同様、2025年の育児介護休業法改正により、介護離職防止のための雇用環境整備の措置が義務化されました。その中で4つの措置のうち1つ以上を選択する必要があり、うちの1つが相談窓口の設置となっています。

根拠法令
・育児介護休業法第26条
法律の背景
介護離職防止のための雇用環境の整備の措置として、4つの措置のから介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)を選択した場合に設置が必要です。
企業に求められる水準
介護休業や介護休暇の制度説明だけでなく、介護と仕事の両立に関する幅広い相談に対応できる体制を整える必要があります
企業の実務ポイント
介護は長期化しやすいため、相談者が必要な情報にすぐ手に入るよう資料を整備し、定期的な情報提供を行うことが重要です。また、介護を「家庭の問題」とせず組織として理解を深める必要があります。

こちらは「介護休業・介護両立支援制度等に関する研修の実施」、「介護休業・介護両立支援制度等に関する相談体制の整備(相談窓口設置)」、「自社の労働者の介護休業取得・介護両立支援制度等の利用の事例の収集・提供」、「自社の労働者へ介護休業・介護両立支援制度等の利用促進に関する方針の周知」のうち1つ以上を実施する必要があります。

内部通報窓口

不正やハラスメントなどの問題を早期に発見し、組織の健全性を守るための仕組みです。

根拠法令
・公益通報者保護法第11条
法律の背景
2022年改正で、従業員300人超の企業に内部通報体制の整備が義務化され、通報者情報の厳格管理や通報対応記録の保存が求められるようになりました。
企業に求められる水準
従業員が安心して利用できる複数の通報方法を整備し、通報者保護を徹底することが求められます。公平で迅速な調査体制を確保し、利害関係者を調査から外すなどの仕組みも必要です。調査結果に基づく是正措置や再発防止策の実施、制度の周知・教育も不可欠です。
企業の実務ポイント
外部窓口の併設や匿名通報の受理は、従業員が声を上げやすい環境づくりに効果的です。調査担当者のスキル不足は制度の信頼性を損なうため、専門家の活用や調査手順の整備が重要です。経営層が制度を重視する姿勢を示すことで、制度全体の信頼性と実効性が高まります。

制度が「形だけ」とならないような運用が大切だね。

メンタルヘルス相談体制

従業員の心の不調を早期に把握し、働き続けられる環境を整えるための仕組みです。

根拠法令
・労働安全衛生法第66条の10(指針)
法律の背景
企業には従業員の健康保持義務があり、ストレスチェック制度の実施や職場環境改善が法的に求められています。相談窓口の設置を推奨されており、産業医・保健師など産業保健スタッフとの連携も重要とされています。
企業に求められる水準
従業員が安心して相談できる複数の方法を整備し、相談内容の秘密保持を徹底することが求められます。産業医や外部カウンセラーなど専門家につながる仕組みを用意し、相談後のフォローアップ体制も必要です。管理職が部下の変化に気づけるよう教育を行い、職場環境改善につなげることも重要です。
企業の実務ポイント
相談窓口は人事部門だけでなく、外部窓口を併設することで利用しやすくなります。相談者のプライバシー保護を徹底し、相談したことで不利益が生じないことを明確に伝えることが信頼性を高めます。相談後は産業医面談や勤務配慮などの支援につなげる運用が重要です。

こちらも利用しやすい雰囲気づくりが実効性を左右しますね。

両立支援相談体制

育児・介護・治療と仕事の両立を支える仕組みとして重要性が高まっており、近年は法制度の後押しによって「整備すべき体制」がより明確になっています。特に、労働施策総合推進法の改正で治療と仕事の両立支援が2026年4月から努力義務化される点が大きな転換点です。

根拠法令
・育児介護休業法
・女性活躍推進法
・労働施策総合推進法
法律の背景
育児・介護休業法や女性活躍推進法に加え、労働施策総合推進法の改正でさらに強化されました。2026年4月からは、がん・糖尿病・メンタル疾患などの治療と仕事の両立支援が企業の努力義務となり、相談体制の整備、制度の周知、管理職教育などが求められます。
企業に求められる水準
従業員が安心して相談できる明確な窓口を設置し、相談内容の秘密保持と不利益取扱いの禁止を徹底する必要があります。育児・介護・治療の各テーマに応じた制度(短時間勤務、時差出勤、在宅勤務、休業制度など)を整理し、相談者に適切に案内できる体制が求められます。
企業の実務ポイント
相談窓口は人事部門だけでなく、外部窓口を併設することで利用しやすくなります。相談後は、勤務時間の調整、在宅勤務、治療スケジュールに合わせた働き方の変更、復職支援プランの作成など、具体的な支援につなげる運用が重要です。

障害者雇用相談体制

障害のある従業員が安心して働き続けられる環境を整えるための制度です。

根拠法令
・障害者雇用促進法
法律の背景
法定雇用率の達成だけでなく、合理的配慮の提供、差別禁止、職場環境の整備が義務化されています。合理的配慮は「本人との対話を通じて必要な支援を検討する」ことが前提であり、そのための相談窓口の整備が不可欠です。
企業に求められる水準
障害のある従業員や採用候補者が安心して相談できる窓口を明確にし、相談内容の秘密保持と不利益取扱いの禁止を徹底する必要があります。相談窓口は人事部門だけでなく、外部専門家と連携し、合理的配慮の検討や職場定着支援につなげられる体制が求められます。
企業の実務ポイント
相談窓口は「採用前」「入社時」「就労中」「体調変化時」など、各段階で利用しやすいよう周知することが重要です。相談者の状況を丁寧にヒアリングし、本人の希望と業務要件のバランスを取りながら合理的配慮を検討します。

安全衛生相談体制

従業員の安全確保と健康保持を支える基盤となる制度です。

根拠法令
・労働安全衛生法(指針)
法律の背景
企業に対し労働者の安全と健康を確保する義務を課しています。安全衛生管理体制の整備、産業医の選任、衛生委員会の設置、リスクアセスメントの実施などが求められ、相談体制もその一部として位置づけられます。
企業に求められる水準
従業員が安全や健康に関する不安・危険・体調変化を気軽に相談できる窓口を整備し、相談内容の秘密保持と不利益取扱いの禁止を徹底する必要があります。相談窓口は人事・総務だけでなく、外部専門家と連携し、必要に応じて職場環境改善や健康管理措置につなげられる体制が求められます。
企業の実務ポイント
現場の作業者が利用しやすいよう、複数の連絡方法を準備すると効果的です。危険や不調を早期に拾い上げるため、管理職が日常的に声かけを行い、相談につなげる役割を果たせるよう教育することも欠かせません。相談後は、作業環境の改善、保護具の見直し、健康診断の追加実施、産業医面談など、具体的な措置につなげる運用が必要です。

おわりに

企業が整備すべき相談窓口や支援体制を並べてみると、その多さに驚かされます。特に中小企業にとって、すべてを実効性のあるレベルで整えるのは簡単ではありません。だからこそ、まずは義務化されているものや、企業にとって重要度の高い領域から優先的に取り組むことが現実的な進め方になります。

法改正によって企業に求められる体制は年々増えていますが、従業員の健康や働きがいを支えるうえで欠かせない仕組みでもあります。人事担当者の負担は確かに大きくなっていますが、組織の力を高めるための大切な基盤でもあります。無理のない範囲で、できるところから着実に整えていくことが大切です。